【読書ログ】正欲-朝井リョウ-

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※本記事はネタバレを含みますので、ご注意ください。

一言感想

自身の多様性への浅慮さについて考えさせられる一冊。群像劇としての完成度も素晴らしい。

by T.M(Cogras運営チーム)

はじめに

作者紹介

ご存知の方も多いと思いますが、著者について紹介します。社会の中での自己や他人との関わりについての描写がうまい小説家です。

朝井リョウ

岐阜県生まれ。小説家。『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。『何者』で第148回直木賞、『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞、『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。ほかの著書に『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』などがある。

本書を選んだ理由

たまたまブックオフで本棚から手にとり、「読む前の自分には戻れない」という帯のキャッチフレーズに惹かれ、読み始めました。

あらすじ

物語の概要は以下です。

社会の一般から大きく逸脱した自己が、”多様性”という言葉で他人が理解しようとしてくることへの図々しさ・いらつき・失望を非常にうまく表現している文章です。

最近読んだ小説で最も心に残っています。個人的に、群像劇がとても好きなことも理由ですね。

  • 複数の登場人物の視点から描かれる群像劇
  • 物語の中心には、それぞれ異なるバックグラウンドや価値観を持つキャラクターたちが登場し、彼らの生き方や選択が絡み合う形で展開される。
  • 社会の中での性に関連した「正しさ」や「正義」について、それぞれのキャラクターが自分なりの答えを見つけようと葛藤するストーリー。

主な登場人物の紹介

『正欲』には、主要な登場人物が複数登場し、それぞれの視点から物語が描かれます。具体的な人数については、作品全体を通じて主要な視点キャラクターが6人ほど登場します。以下に主要な登場人物の概要です。

登場人物

寺井啓喜(てらい ひろき)

横浜地方検察庁に勤務する検事。小学校4年生で不登校状態の息子・泰希をもつ。泰希が友人とともにYouTubeで動画を投稿することに反対する。
妻と息子、同僚とのやり取りから、自身が信じる正義に対して、懐疑を持ち始める。

桐生夏月(きりゅう なつき)

岡山駅に直結するイオンモールにある、寝具店の販売員。中学校の同級生の披露宴で、佐々木佳道と再会する。
他人に明かすことができない正欲を内に秘め、周囲の常識や正義に苦しんでいる。

神戸八重子(かんべ やえこ)

金沢八景大学に通う3年生。学祭実行委員で、「ダイバーシティフェス」を企画・運営する。
自身の過去の苦しい経験から、多様性を理解したいという思いを持つ。

佐々木佳道(ささき よしみち)

高良食品営業部商品開発課に勤務する会社員。夏月の中学校の同級生だが、3年生の途中で転校した。
桐生と同じく、他人に明かすことができない正欲を内に秘め、周囲の常識や正義に苦しんでいる。

諸橋大也(もろはし だいや)

金沢八景大学に通う3年生で、ダンスサークル「スペード」に所属している。昨年の学祭のミスターコンテストで準ミスターに選ばれた。
桐生、佐々木と同じく、他人に明かすことができない正欲を内に秘めている。他人からの多様性理解の押し付けを受け、世間との乖離に苦しむ。

テーマとメッセージ

本書のテーマは大きく「多様性と共生」と考えます。

多様性と共生

まず多様性が最近トレンドワードになっている点について
あなたが理解している多様性は、所詮あなたが理解しうる中での多様な考え方であり、その言葉によって、社会の中の誰かが傷ついているということです。

共生の難しさと挑戦

社会の期待と個人の葛藤

  • 社会が求める「正しさ」に対する登場人物たちの反応や葛藤が描かれています。
  • 特に寺井については、設定の職業からか、その描写が多く記載されています。
  • 葛藤は、現実社会でも多くの人々が経験するものであり、多様性の中で共生するためには互いの価値観を尊重し合うことの難しさが描かれています。

共生に向けた対話と理解の難しさ

  • 多様な価値観を持つ登場人物たちが、互いに対話を重ね、理解を深めていく過程が物語の中で描かれています。
  • ただ、理解しているような前提で相手と対話することは、自分の理解の範疇外にあるものについて、深く傷つけてしまうことがあり、その難しさが神戸と諸橋の対話のパートから深く読みとれます。

多様性の尊重と社会的インクルージョン

多様性の受容とインクルージョン

  • 『正欲』は、多様な価値観や生き方を受け入れる社会の重要性を描いています。登場人物たちの多様な生き方や背景が交錯する中で、社会が個人をどう受け入れ、インクルージョン(包摂)するかが重要なテーマとなっています。
  • ただ私は、多様性は多様性なままでよく、他人に理解される必要はない上に、同じ考えをもつ同士がいさえすれば、それでいいのだというメッセージを個人的に受け取りました。
  • ダイバーシティを理解し受け入れましょう!といった近年の親切心のようなものは、結局自己満足であり、他人は他人なのだから、理解する必要はないように感じています。

「もちろん差別はいけない。ただ理解する必要はなく、理解した気になってもいけない。」

他人を理解するということ

Cograsには、他人と意見を交わし、多様な考え方から学ぶサービスがあります。

Cogras
「学び方」を学ぶオンラインスクール

もちろん相手を完璧に理解することは、どんな人でも不可能です。また価値観の異なる人と対話したり、意見を集約させることは容易ではありません。

ただ以下のことを意識して、社会の中での日々の生活やグループディスカッションといった共同作業を行ってみると案外うまくいくかもしれません。

  • 他人は他人であり、相手を完璧に理解することはできず、常に想定外のところにいる

他人が自分の理解の範疇にいないのであれば、差別・軽蔑することはおこがましいことです。相手の言葉には耳を傾け、理解できない場合でも、一意見として参考にしましょう。

まとめ

最後に

いろいろ個人的な考えを記載していますが、まずは皆さんに読んでいただき、これまでの自分の多様性という言葉への理解について、改めて考える機会にして頂きたいです!

朝井 リョウ

一部性的な表現を含む箇所もあるので、苦手な方は注意してください。

では、また!

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